導入事例
【教育×VR】交通事故を体験し“自分ごと化”|加賀市 教育委員会・島谷千春 教育長インタビュー

子どもの自転車事故による死亡件数は減少傾向にあるものの、教育現場では「自分の命を守る行動」への意識づけ、つまり行動変容が十分に促せていないという課題が残っています。
こうした背景のもと、加賀市ではVR技術を活用した交通安全教育に取り組みました。これは、従来の視聴覚教材や座学では得られなかった「体験」によって、自転車事故のリスクを自分ごと化し、行動に結びつける新しいアプローチです。
株式会社アルファコードが開発したこのVR交通安全教室は、加賀市内の全中学校6校で導入され、体験型ワークショップとして展開されました。全国でも先進的なこの取り組みについて、加賀市教育委員会の島谷千春教育長に伺いました。
サマリー
・概要:通学路を再現したVR空間で、スマホ事故、右側走行の危険性、自己防衛策を学ぶ3つのシナリオを体験。
・導入前の課題:従来は交通ルールを守る指導に終止し、「自分ごと化」されにくかった
・導入後の効果:「自ら気づき、行動を考える」体験型学習で生徒の交通安全に対する意識と理解が大きく向上。
「VRで交通安全教育を進化|加賀市で自転車事故防止ワークショップ」
加賀市教育委員会・島谷千春 教育長インタビュー
学校での交通安全教育は、従来から実演や視聴覚教材等の方法が取り入れられてきましたが、VRで交通安全教育を行おうと考えたきっかけを教えてください。
島谷教育長:「行動変容を生み出すためには、子どもたちが交通安全教室の内容を「自分事化」してもらうことが不可欠です。
ただ毎年、交通安全教室のコンテンツの改善を図っても、結局は「ルールを守りましょうね」といって生徒が「はい」と答えておしまいになるのがお決まりになっていて、私自身、そんな生徒たちの反応に長らくモヤモヤしてきました。
今以上に生徒自身が考えて行動するには、従来の教科書的な交通安全教室を刷新する必要があるのは明らかなのですが、物理的にも経済的にも実現が難しかったのが大きな課題でした。それを解決するためにアルファコードさんと打ち合わせを重ねました。」

島谷教育長
今回の加賀市でのVRでの交通安全コンテンツ、またアルファコードについての印象を教えてください。
島谷教育長:「とても柔軟に生徒や地域に最適化したソリューションを提供してくれたことに感謝しています。学校前の坂道や通学路の危険な交差点を3Dで再現したもらったことで、生徒からも「あそこだ!」と声がすぐ上がって没入感が高まっていました。」
「フォトグラメトリ(写真測量法)」という技術ですね。実際の通学路周辺を360°カメラで撮影し、VR空間に再現しました。

左・360°カメラでの撮影 | 右・VR空間に再現された通学路周辺
島谷教育長:「その一方、アルファコードさんの技術力であればどこまでもリアルなアバターなども作れるでしょうが、相手は子供なので、ショックにならない刺激を与えられるちょうどいいグラフィックに調整いただきました。
子供がストンと落ちる没入感を体験できるVR機材の選定・調達やコンテンツ作り、当日の運用も含めて実施していただきました。」
VRによる交通安全教室で、生徒の反応は変わりましたか?
島谷教育長:「明らかに変化しました。VR体験中は、事故にあう瞬間に悲鳴が上がったり、椅子から転げ落ちるほど没入していたのは一目瞭然でした。また、何よりも変化したのは交通安全教室の内容に対する受け止め方です。

石川県加賀市片山津中学校でのワークショップの様子
車の運転者側で自転車事故を体験してもらうことで「自転車と車のどっちが悪かったのだろう」とか「こんな感じで事故が起こるんだ」と、VRのアバターを自分に置き換えて振り返っている姿は、これまででは見られない反応でした。

左から、スマホ事故、右側走行の危険性、自己防衛策を学ぶ3つのシナリオ
「交通安全教室だけではありませんが、このように自分で考えて言語化することが自分事化し、行動変容に至る。そのきっかけを目の当たりにしたと感じています。
VR空間を通じて子供が想起できないことを体験させることが、交通安全教室の大きなイノベーションになると感じました。」
交通ルールを守る意識だけでなく、「自分たちを守るための行動変容」につながったということですね。


衝撃的な体験から想起し、深く学ぶ。
加賀市立片山津中学校:一年生の声

インタビューにご協力いただいた石川県加賀市片山津中学校1年生の皆さん
「体験から考えるVR交通安全ワークショップ」に参加して、どうでしたか?
・自転車が道路を右側通行していたら、運転している人からは見えないってことが分かって驚きました。
・事故を起こしてしまったときは、車だけじゃなくて「自転車も悪い」ことに初めて気付きました。自分が運転者の立場で見たからか、自転車が突っ込んできたときは運転者の人が少し可哀想に思えてしまいました。
・携帯を運転しながら触ったら、周りが全然見えなくなるのにも驚きました。
・今までの交通安全教室のなかで一番怖かったです。ちゃんとヘルメットを被ろうと思いました。
・一番、印象に残っているのは学校前の坂の事故のシーン。勢いをつけて下ったら事故が起こってしまうのが想像できました。VRは初めてでしたけど、「お母さんが運転しているとき、こんな風に見えているんだ」と思いました。
VRによる交通安全教育を通じて、事故の危険性を自分ごととして実感できたということですね。これからの運転の意識が変わりそうですね。
石川県加賀市でのVRによる交通安全ワークショップは、複数のメディアで取り上げられました。
・朝日新聞「中学生が車を運転し事故を「体験」 VRで自転車の乗り方変わる?」https://www.asahi.com/articles/AST260SKNT26PJLB008M.html
・朝日新聞「自転車との「ヒヤリ」、VRで体験 中学生が車の運転手に 石川・加賀」
https://www.asahi.com/articles/DA3S16154062.html
・中日新聞「「想像以上のリアリティー」 VR活用し片山津中で交通安全教室 自転車通学の危険性体験」
https://www.chunichi.co.jp/article/1012575
・北國新聞「VRで交通安全学習 加賀市教委 市内6中学校で実施」
https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/1627870
■今回採用されたソリューション「VRider COMMS」について
VRはゴーグルを被って体験するという形上、体験者が一人だけで行うものになりがちですが、アルファコードのVRは独自アプリケーションによって複数人で同じVR空間を同時に共有し、VR空間内でコミュニケーションを取ることを実現しました。
参考リンク:VRider COMMS https://www.alphacode.co.jp/solution/20220621181535.html


